リピーターのお客様はとても有難い存在です。学生から依頼を受けて就職してその後広い部屋へ引っ越したり花嫁をもらったり嫁に行ったりと右肩上がりの人生ならばとても喜ばしいものです。しかし破格値で引っ越しを行っていると当然お客様は一番安い業者を探しているお客様が多くなるのは避けられません。故に長年引っ越し作業を行っていれば人生がどんどん傾いていくリピーターのお客様もいらっしゃる訳です。
 このお客様からの初めての依頼の場所は湾岸地帯の高級高層マンションからの依頼でした。なんとこの建物にはコンシェルジュが1階にいるようなマンションで当店のような軽トラックの引っ越し業者が訪れる建物ではありませんでした。特に引っ越し理由などは伺いませんでしたが、明らかに家賃削減の為の引っ越しでした。当然軽トラックではすべての荷物は入りきりません。日数を分けて3回運んで漸くすべての荷物を運び終えました。行先はエレベーターもない小さな雑居ビルの2Fでした。以前の事務所から比べればかなり床面積は小さくなりましたが今度は遊びのスペースが無くなっただけでパソコンも5台程度は並べられた立派な事務所の風貌になりました。どうやらこのお客様はこの引っ越し先の空室だった雑居ビルのポストにあった当店の引っ越しチラシをご覧になって破格値で引越しが出来そうだと当店を選んでいただいたようでした。その後は数回この事務所へ荷物の搬送の仕事などを請け負いましたが、5年前後たった頃に再度引っ越し依頼が舞い込みました。荷物のほとんどをトランクルームへ運びたいという事なのです。そして一部の荷物を従業員の実家のお店に降ろしたいというのです。ついにこの事務所も閉鎖のようです。ただ一部の仕事は一人だけ残った従業員が行うために狭いお店の裏側にパソコンやプリンタなどを降ろしました。ほとんどの入りきらない資料などはトランクルームに保管しておいおい整理する模様です。その後も引っ越し依頼が入りました。今度は自宅の引っ越しです。当初はコンシェルジェ付きのマンションにお住まいだったはずですが、最終的な自宅は普通のワンルームマンションでした。おまけに5階建ての5階でエレベーターもない物件でした。明らかに家賃を抑えていたのが明白です。すっかり若者と同じスタイルで、もうこれでこのお客様の依頼は終了かと思った約半年後に意外な依頼が入りました。「もう引っ越しじゃないんだけど椅子を1つだけ運んでくれないか。」という依頼でした。事務用の椅子を1つだけ運ぶと多分買った方が安いと思われますが、過去の引っ越しで何回か運んでいる事務用の椅子を1つだけお客様の自宅から数キロ先の工場へ休日に運びました。するとこのお客様はこの工場の守衛室で警備員のアルバイトをしていたのです。この工場にある椅子の座り心地が悪かったようで自宅にあった椅子に交換したのでした。これで今や以前の事業から手を引いてしまったのがわかりました。羽振りの良さそうな高級マンションからワンルームアパートでのアルバイト生活に変わってしまったのです。事業を長年続けていく難しさがはっきり分かりますね。株式会社の平均寿命も20年少々らしいので頑張った方かもしれませんね。

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 おとめ山公園の池は亀だけの池ではありません。広さも普通にあり木陰で寛げます。